2009年01月06日

■【天皇の20年】皇位継承に制度的安定を 小堀桂一郎

■【天皇の20年】皇位継承に制度的安定を 小堀桂一郎

                                                             平成21(2009)年1月1日[木] 

  平成21年といふ新しい年を迎へて、我が国が官民挙げて取り組むべき重要な国家的課題は何々であらうか。是非に且(か)つ緊急に解決しておかなければならぬ懸案は次々と思ひ浮かぶのだが、昨年12月19日に今上(きんじょう)天皇御在位20年奉祝の式典が執行(とりおこな)はれ、本年11月12日には平成2年の即位の御大典挙行から20年目といふ奉祝行事が開催されるといふ予定に鑑(かんが)みても、次の一事こそ本年といふこの機会を捉(とら)へて何とか解決に漕(こ)ぎつけたい喫緊の大事である。

 即(すなわ)ち、平成18年9月6日、秋篠宮家に待望の皇位継承権を保有せられる男児として悠仁(ひさひと)親王殿下が御誕生になつたことは、文字通りに暗夜に曙光のさし初(そ)めた如き慶(よろこび)を国民にもたらしてくれたのであつたが、反面、皇位継承といふ国家最大の重儀の末長い安定をと志して展開されてゐた国民運動の熱気が、御慶事を契機に急速に冷却してしまつたといふ事態がある。

 ≪危機の回避には至らず≫
 顧みれば、平成17年12月に小泉内閣が召集した「皇室典範有識者会議」の面々の統一見解であると伝へられた、国体の破壊を企(たくら)む典範改悪の方向に危険を感じた一部民間有志の研究組織たる「皇室典範研究会」(本「正論」欄の執筆員である大原康男、百地章、八木秀次の諸氏もその成員である)は、度々の声明発表や集会決議を通じて、典範改悪への策謀の阻止を訴へ、警告を発してきた。


 18年2月7日の秋篠宮妃殿下御懐妊の朗報を以(もっ)て、典範改悪の謀議は一朝にして事実上瓦壊したのだが、この会はその後に於(お)いても、皇位継承の危機回避・制度的安定のための最大の鍵は、一皇族男子の御出生のみを以てしては到底覆ひきれない深層に存するとの見解を持して、引続いて特別立法案の研究を進めてゐた。


 この研究は18年秋の悠仁親王殿下御誕生により一般の危機意識が楽観的観測に転回した後にも当初の腹案に特段の変更を加へることなく、数へてみれば平成14年6月以来20年10月に至るまで6年の歳月を費して検討を続けてきた。


 共同研究の成果としての報告書はかなり長く、且つ詳細にわたるものであり、又事の性質上手軽に御紹介はできないが、題して「皇位の安定的継承をはかるための立法案」、その説明として「元皇族の男系男子孫による皇族身分の取得について(案)」といふ文書であるので、その性格を大凡(おおよそ)推知して頂けよう。


 なにぶん一篇の「立法案」なのであるから、報告書をまとめただけでは未だ何事も始動するわけではない。研究会はこれを超党派の組織である「皇室伝統を守る国会議員の会」の世話人方と20年10月下旬に接触の上、報告書についての研究会側の著作権めいたものは一切考慮不要として、文書の含む資料・情報・提案の全てを当該国会議員諸氏の自由な利用に委ね、具体的な立法措置の検討に取りかかつて頂くこととした。謂はば、皇位継承の重儀の制度的安定化といふ重大問題を、歴史的論理的研究の段階を漸(ようや)く通過せしめ、実践的政治的実現の段階へと移行させる準備を辛うじて終へたところである。


 ≪陛下への最大のお慰め≫

 問題は、冒頭に一言した如く、現在の政界があまりにも多事多端で、解決すべき緊要の課題が目前に山積してゐるといふ状況の中で、立法府の議員諸氏がこの様な選挙での得票にはつながり様もない雲の上の問題にどれほど関心を持ち、その政治力を傾注して下さるか、である。


 仄(ほの)かに承るところによれば、今上陛下の御健康状態は必ずしも好転されてをらず、宸襟(しんきん)を悩し奉る御身辺の坎●(かんか)も跡を絶たないといふことである。蒼生(そうせい)の一人として畏(おそ)れながら憂慮に堪へないと言はないわけにゆかない。

 比較的御高齢での即位を果された今上天皇が、既に御在位の期間20年に達せられたといふことは実にめでたい次第であり、昨年中に奉祝式典を企画・実行された人々、本年秋の御即位20周年奉祝行事を予定してゐる民間諸団体、臨時祝日の制定に向けて動いてゐる立法府議員諸氏の祝意に水をさすつもりは毛頭ない。 

 然し、御加齢と御心労による御憔悴(しょうすい)が明らかに看て取れる両陛下にとつて、現在最も肝要なお慰めの料(れう)は、皇室の将来について、制度的にも真の御安心を頂くための法的政治的施策に、少くとも近々に着手することではないのか。あの愛らしい悠仁親王殿下が愈々(いよいよ)御践祚(せんそ)といふ将来の或る日に、周囲に所謂(いわゆる)皇室の藩屏(はんぺい)が皆無といつた状況が生じる可能性は現に有るのだ。そんな深刻な事態を何としてでも避けたい。本年こそその対策に立ち向ふべき決断の秋(とき)である。

産経新聞 21.1.1から引用

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