2009年02月04日

【正論】 政治が自衛官の士気低下招く

                                                              平和・安全保障研究所理事長 西原正 2009.2.3 
  ≪憲法上の地位への不満≫

 最近、幹部自衛官(制服組)と接触する中で、彼らの士気が低下しているのに気付く。この1年ほど、イージス艦の機密漏洩(ろうえい)、護衛艦「あたご」の漁船衝突、田母神発言など問題が相次いだ。だが制服組の不満は、そうしたことで非難されること以上に、政治家が自分たちの任務、苦労を理解しようとしていないということに基づくと聞く。

 こうした不満をそのままにしておくことは、自衛官の士気を下げ、ひいては国防の根幹をなす自衛隊の組織の弱体化を招く。どこの軍隊も、国民およびその代表(行政府や議会議員)の強い支持と激励がなければ、犠牲を伴う困難な任務をやろうとする気にはならない。武人はなによりも名誉を尊ぶのである。
 彼らの不満の第1は自分たちの憲法上の地位である。自分たちは果たして「軍隊」なのか、という根本的なところで、自民、公明、民主各党の政治家がいつまでたっても明確な解答を出そうとしない点である。その怠慢が自衛官の心情を傷つけているのだという認識が政治家にほとんどない。誠に遺憾である。

 ≪「非戦闘地域」での誤解≫
 第2に、陸上および航空自衛隊員らが派遣されたイラクの現場を、政治家が「非戦闘地域とは安全なところ」と単純に思い込んでいることへの不満がある。イラクに派遣された部隊は、イラク特措法によって「非戦闘地域」での困難な任務を与えられた。その任務を見事に達成し、しかも一人の犠牲者も出さずに全員無事に帰還した。

 しかし、「非戦闘地域」とは単に戦闘行為が行われていない地域というだけで、実際は少なからず危険があったのである。
 それがために、陸自派遣部隊のキャンプは工夫を凝らした防護態勢をとっていた。事実、キャンプに不審弾が着弾したことが何回かあった。空自の場合も、バグダッド空港などでは離着陸直前の低空飛行の際に地上からのロケット砲攻撃を受ける危険に対処するため、急上昇ないし螺旋(らせん)形急降下による離着陸を行っていた。

 これは高度の操縦技術を要するといわれる。これを5年間にわたり、一度も攻撃に遭わずに八百余回行ったのである。制服組は、「訓練の成果と任務への旺盛な完遂意欲の成果」だといっても、政治家がこのことに理解を示さないことに不満をもつ。

 ところが、攻撃を受けた際の野党の反応は「非戦闘地域ではなかったではないか、法律違反だ」と政府を非難していただろう。政府からは自衛隊の情勢判断ミスを咎(とが)められたかもしれない。これを恐れて、自衛隊はイラクでの苦労話をあまり広報しなかった、という。これがかえって政治家の理解を不十分にさせてしまった側面もある。

 ≪武器使用基準への無理解≫
 第3に、制服組には、自分たちの任務に課せられた「不合理な」武器使用基準を、政治家が不合理と思っていないという不満がある。
 アフリカ・ソマリア沖の海賊取り締まりのために自衛艦を派遣する準備が進められている。政府は、新法が制定されるまでは、自衛艦の任務を自国船関連のみの保護に限る方針のようである。

 また自衛艦には、危険が迫っているときにも「正当防衛」が明白でなければ、海賊や海賊船を直接攻撃できないし、海賊の捕捉もできないという武器使用基準を適用しようとしている。
 政府は新法を用意して、他国船の保護や海賊への攻撃・捕捉が可能になるようにしようとしている。だが、公明党や民主党の反対を受けて、武器使用基準を厳しいものにせざるを得ないであろう。

 しかしその結果、自衛艦の行動にタガをはめすぎた不合理な法律をつくることになるとは、どの政党も思わないだろう。それでは派遣された自衛艦が海賊船に逆に拉致されるといった笑えない事態も起きないとはいえない。

 他国船が保護を要請してきたときに、自衛艦は「新法ができるまでは、自分たちの任務でない」として最低限の協力しかしないのか。そんな警備行動は国際的には通じないし、何よりも当の自衛官たちは面目を逸し、当惑するだけである。

 政治家は、制服組の理にかなった不満に一刻も早く応えるべきだ。不満を持たせたままにしておくのは、きわめて不健全である。政治家が彼らの苦労を理解し、激励することを求める。彼らがすすんで任務を果たせるような政治的環境をつくらなければ、国防に命を賭ける気がしなくなるであろう。
 自衛隊は軍隊であるとの政治判断によって制服組に誇りを与えることこそがシビリアン・コントロール(文民統制)の第一歩である。
posted by Depot at 09:56| Comment(0) | TrackBack(0) | D/B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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